「景吾さん」
「なんだ」
背中合わせで座っている後ろで若が俺様の名前を呼ぶ。それに答える。
「いえ、なんでもありません」
何回目だこれは。名前を呼ばれるのは嬉しい、意味のないやりとりが楽しいとこんなに思うことはない。が、何回も続くと意味が知りたくなる。
「若」
「はい」
「なんでもない」
若が少しピクリと動く。お前の気持ちを知りたくてやったが、意味がまるで分からない。
「ああ、景吾さん」
「……」
「景吾さん」
「……」
ためしに黙ってみる。傍から見れば拗ねた子供のように口を閉ざしている。自分でやっている行為ながら幼稚だ。どうして名前を呼ぶのか知りたいだけなのに。
「怒りましたか?」
「いや、」
「何か聞きたそうですね」
背中合わせなのに考えていることが読まれる。
「俺が景吾さんのことで分からないことがあるとでも思ってますか?」
「言うじゃねーの」
「まあ、景吾さんのことばかり見てましたから。……いいじゃないですか名前。景吾っていう」
「……」
「呼びたくなるんですよなんとなく。」
「…そうか」
「意味もなく、呼んだ理由です。不満ですかね?」
「ああ、不満だ」
「?」
「なんとなく、じゃ不満だな」
「…ああ、そうですよね。好きですよ景吾さん」
できればそのセリフでは名前を呼び捨てにして欲しかったがな。
「気が利かなくてすみませんね」
俺一人にやっと聞こえるような声で景吾と付け加えて後ろから抱きしめられた。
「十分だ、若」