それが恋だと誰かが言った
棘より鋭く 蜜より甘く
「跡部サンの髪って茶色っすよね〜!地毛っすか?」
「アーン?」
「目とか青いしなんか外人さんみたいっす」
「それ褒めてんのか」
「もちろんっすよ〜!」
午前の練習が終わりそれなりに人がいる休憩室に俺はいた。前にいるのは尊敬している先輩であり恋人である跡部さん。そして切原赤也だった。
跡部さんと切原が仲良く喋っていることにすこし驚いたが、合宿所で一緒に生活してたのだから今まではレギュラー位しか知らなかった面倒見のよさとか意外とかわいい所とかを知って親しくなったのだろう。少しだけ残念というか悔しいという気持ちはあるがそれはいい。だが近いのだ。距離が、近い。それに何故か苛立ってしまう。そしてそんな自分にさらに苛立つ。
「あっそうだ!今日の午後の自主練、よかったら一緒にしません?」
「ん?今日の午後か?」
今日の午後・・・確か昨日の夜メールをして一緒に練習する約束をした。いろいろあってゆっくり話せなかったし、久しぶりに二人きりになれると楽しみにしていた。
「・・・今日の午後は先約があってな」
「そうっすか・・・。また今度空いてたらよろしくお願いします!」
「あぁ」
笑顔の切原の頭を自然な動作でなでる跡部さん。やめてくださいよー、と言いつつ嬉しそうな切原。お前は犬か。あと跡部さんは恋人の前でなんで他の男の頭なんてなでてるんですか。なんて口に出せるわけなくて少しだけコップに残っていた水を飲み干す。その場に居たくなくなって立ち上がる。思っていたより大きな音が出てしまって二人が驚いたようにこちらを見る。何も言わずに俺は部屋を出た。
「・・・・っ!・・・おいっ・・・止まれってんだよ!」
自分の部屋にでも戻ろうかと廊下をすこし早足で進んでいると後ろから聞きなれた声が追ってきて足を止めてしまう。振り向くと困ったような顔の跡部さん。走って追ってきたのだろうか。胸の痛みが少しだけ減る。でもさっきのことを思い出すとまた苛々してくる。
「なんですか」
「なに怒ってんだよ」
「怒ってませんよ」
「アーン?俺様の眼力を使わなくてもお前が怒ってることぐらいわかんだよ。切原にも気づかれてたぜ」
呆れたような顔で跡部さんが言う。
「・・・じゃあその眼力で俺が何に怒ってるか当てたらいいんじゃないですか」
突き放すように言うと、跡部さんが静かに見つめてくる。さっき切原が言っていたが確かに青い。
2分ほど沈黙の後ようやく跡部さんが口を開く。
「・・・昨日」
「昨日?」
「一緒に夕飯を取るって約束を俺が破ったから怒ってんのか?」
全然違う・・・!というかまだ気にしていたのか。夜のメールでいつもの態度からは考えられない程謝られて、明日の練習に付き合ってくれたらチャラにすると言って終わったはずなのに。
怒られた子供のような表情に思わず笑顔になりそうになる。自分との約束を大事に、楽しみにしていてくれたということか。さっきまでの苛々が消える。今なら怒っている原因を口できるかもしれない。してもいいのかもしれない。
「全然違います。・・・さっき、切原となんか仲良さそうで、あんたも楽しそうで。それで、ですよ」
あなたの眼力もまだまだですね、と照れ隠しも含めてからかってみる。やはり口にすると恥ずかしい。自分の小ささを実感させられているようで。素直に言えない頑固さを再確認させられているようで。直したい自分の性格ではあるがなかなか難しい。何となく下げていた視線を上げると
「・・・・・・」
きょとんとしたような、そんな珍しく無防備な表情の跡部さん。だんだんその顔が笑顔に変わっていく。めったに見せてくれない子供のような笑顔。思わず見とれる。
「・・・おい日吉。それ何て言うか知ってるか」
「は?」
「嫉妬って言うんだぜ」
一体なにがそんなに嬉しいんだ